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消えた名画を探して

 ゴッホ、ピカソ、ルノワール、ダリ、名画と呼ばれる美術の教科書に出てくるような絵、それが今誰が所有しているかわからない、という。

 今から十数年前のバブル期に、安田火災が約58億円で購入して話題を呼んだゴッホの「ひまわり」に始まった日本人による名画の買いあさり。日本人による相次ぐ名画の購入は、ある意味、日本人における美術への関心を高めたという側面もある。また過去の歴史をひもとけば、時の勢いのある国に美術品が流入するのは自明の理だという。

 しかし「名画は単なる美術品ではなく、人類共通の財産である」という認識をもった欧米の国々に比べ、日本では単なる土地建物といった不動産と同様の財産として扱われているという事実を、この本では突きつけられる。さらにはイトマン事件のように不透明な美術品取引慣行を悪用し、不正取引の道具に使われたりする実態が書かれている。

 なにも絵画を購入した人だけが悪いのではない。事実、名画を購入したコレクターの多くは美術館等を作りコレクションを公開する計画をもっていた。ただバブルがはじけ、その計画が泡と消えただけである。バブルの崩壊により担保として差し押さえられた名画は、不動産と同様に購入価格と評価価格との差額が大きすぎ売れるに売れない。さらにはバブル景気で日本人によって購入されそして担保に押さえられたという事実は、そのプロヴァナンス(来歴)に汚点をつけられたという意識が欧米のコレクターに働くらしい。

 日本のコレクターによって購入された名画は、そもそも個人で購入したのか自分の会社名義で購入したのかがわからない。そしてバブル崩壊後に担保として差し押さえたのは、誰なのかは全くわからなくなってしまった。しかし売るに売れない名画は、どこかの銀行やノンバンクによって、公開される訳でもなくかといって売られる訳でもなく、倉庫に「塩漬け」されている。つまり世間からは消え去るのだ。

 今、失われた十年と言われる日本のバブル後を過ぎ不動産市場が動き始めているように、美術品も売買がされるようになってきた。ひそかに相対取引で国外に流出したり、ひっそりとオークションに出品されてきている。(だだし出品者は明かされない)

やがて、人類共通の財産である「消えた名画」もひょっこりと現れるのだろうか。

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 図書館にあった本なのですが、美術書のコーナーにありました(笑)。確かにテーマは名画だけど純然たるノンフィクション。どういう基準で分類しているのかよくわからない。そしてこの本、文章は読みやすいのですが、バブル期の企業不正のカラクリ等の記述等あったりして、なかなか頭に入っていかず、読みえるのに非常に時間がかかってしまいました。


消えた名画を探して
糸井 恵 著
ジャンル ノンフィクション
出版 時事通信社
四六版 248ページ
価格 1,800円

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2003年07月28日 18:46に投稿されたエントリのページです。

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