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中村屋のボース/中島 岳志

 銀座木村屋と並び称される新宿中村屋。
あんぱんと言えば木村屋、クリームパンと言えば中村屋ですが、中村屋にはもう一つの名物、インドカリーがあります。

なぜ中村屋でカリーを扱っているのか。それは中村屋とインドは浅からぬ縁があるからなのです。

 第二次世界大戦前、イギリスの植民地だったインドでは独立を求める運動は絶えず、R.B.ボースもまたそんな活動家の一人でした。1915年、インド人軍隊の蜂起を企てたボースですが、その計画はイギリスに事前に察知されてしまいます。逆に官憲に追われる身となったボースは偽名を使い、危ういところで日本へと逃れます。

 しかし当時の日本は、日英同盟の時代。
やがて正体がばれたボース、イギリス政府は日本に引き渡しを求めます。
やむを得ず、国外退去命令を出す日本政府。しかし国外に出たとたん、イギリス政府に身柄を拘束されることは自明の理です。
そんな状況で、西洋社会に屈することなくアジア諸国の独立を支援しようというアジア主義者の人たちは、「彼をイギリスに引渡しては日本の恥」と彼を匿うことを決めたのです。
 その時、彼を匿ったのが当時文化人のサロンと化していた新宿中村屋なのです。中村屋の庇護の下、身を隠したボースはやがて中村屋の娘 俊子と結婚し、1男1女を設けます。

 日本へ亡命したボース。
 この本では、日本の関心をインドに向けようと孤軍奮闘する様子や、帝国主義を批判しつ遠いインドの独立を願っての政治活動を、各種書簡や文献等の緻密な調査から詳細に描かれてます。
 思うように進まないインドの独立、遠く離れてしまいながらも精一杯自分のできることをするボースの様子がありありと目に浮かびます。

 著者は学生の時にボースの娘 哲子さんから、ボース宛の書簡を見せてもらったことがきっかけで、この本を描くことを決意したといいます。確かにこの本では、堅い内容の章とそうでない章と入り交じって読みづらい部分もありますが、日本のノンフィクションで、ここまできちんとした調査をベースにして書いた本というのはなかなか無いので、それだけで賞賛に値するのではと思います。
 きちんと調査を元にかかれたノンフィクションは、それだけでおもしろいものだと実感させられた本でした。さすが大仏次郎論壇賞は伊達じゃありません。

中村屋のボース

著 者 中島 岳志
ジャンル ノンフィクション(伝記)
出版社 白水社
四六版 364ページ
価 格 2,310円

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コメント (2)

Roko:

yomikakiさん☆トラバありがとうございます
中村屋さんも、ナイルさんもカレーは食べたことがありますが、その発祥の秘密は知りませんでした。(^^ゞ
こういう隠れてしまった歴史というのは、きっと他にもいろいろあるのでしょうね。

yomikaki:

Rokoさん、こんにちは。
中村屋もナイルもカレーを食べたことがありませんでした。

でこの本を読んで、スーパーで売っているレトルトの中村屋のカレーを買ってしまいました(笑)

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2006年03月07日 07:34に投稿されたエントリのページです。

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